本研究は、参加型現代美術作品を用いた体験的鑑賞教育の可能性とその意義を明らかにするための調査及び研究を行うことにある。初年度から継続して、1参加型現代美術作品が含まれている展覧会の踏査。2美術館及び小中学校で行われている鑑賞教育。3参加型作品の制作および展示発表を行った。 1では、KOSUGE 1-16の『AC-MOT』(こどもの庭・東京都現代美術館)及び『長者町山車プロジェクト』(あいちトリエンナーレ2010・愛知県名古屋市)を追跡調査した。これまでの考察を基に踏査した結果、次の変化が確認された。(1)鑑賞者がメタ的視点を持たなければ把握できない活動をより実感することが出来る仕組みを提示していること。(2)反面、外部の鑑賞者には半ば閉ざされたものへと変容したことである。 2では、教職員向け鑑賞授業研修会(群馬県立近代美術館)、鑑賞の授業(小学校)、中学校と美術館の連携による鑑賞授業をそれぞれ視察した。結果、組織の違いから活動目的に差が生じることが明らかとなった。 3では、制作に参加した鑑賞者とその友人、一般の鑑賞者など個別的なコンテクストが鑑賞に差異を与える結果が得られた。作者自身が参加者と鑑賞者の変化について考察した事例が限られている現状から、本考察の意義は少なくはない。 本研究を踏まえ、次のように言うことが出来る。歴史的に価値付けられた解釈に至るという意味においては、作品に対する正しい理解は成立するが、現代美術のように価値が未確定な対象には合致し難い。ならば、現代美術を対象とする鑑賞とは、様々なコンテクストへの接続が自らの判断に拠ることを自覚し、これを言語化して他者へ発信することを通して承認を得る過程だと借定し得る。ならば、参加型作品とは作品特性に従った鑑賞の一様態であり、「参加」が体験的鑑賞を助長または強化するとは断言出来ない。体験的鑑賞教育とは一連の活動が個別的体験的だと自覚される上で成立することが判明した。
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