従来より、日本においては、外国語教員に求められる資質・能力について、「英語力」「第二言語学習得の知識」「教材開発の技能」など、おおまかな記述が多く見られた。これは教員養成・研修プログラムを計画する際にある程度の指針を与えるが、受講者が目標を意識しながら講義を聴いたり、課題に取り組んだりするためには不分である。結果として、講義や演習における活動の意味が受講者には十分に理解されず、課題を受け身的に「こなす」ことのみに躍起になる姿がしばしば見受けられる。そこで、外国語教員に求められる資質・能力を具体化し、内省を促すツールとして活用できれば、上記のような問題に対応できると考えている。 この課題意識のもとに、平成20年度は、外国語教員に求められる資質・能力に関する基礎資料を収集し、オランダと日本の比較を通して、それぞれの特徴を明らかにした。オランダからは、Beroepsstandaarden en registratie in talenonderwijs (BiT)を、日本からは文部科学省の『「英語が使える日本人」の育成のための英語教員研修ガイドブック』とJACET教育問題研究会の『英語教員の質的水準の向上を目指した養成・研修・評価・免許制度に関する統合的研究』を用いて比較分析した。その結果、オランダに特徴的な要素は、目標言語の定常的な使用、社会文化的能力の重視、自立学習の重視、教員集団におけるチーム力の重視などであり、日本に特徴的な要素は、教科書の内容を中心とした指導力、学習意欲の重視、コミュニケーション活動の重視、教職への情熱・使命感などであった。これらの特徴は、両国における社会言語的背景や教育的価値観と深く結びついている。日本の教育文化に根ざした教員養成・研修プログラムを開発するためには、これらの特徴を踏まえた上で外国語教員の資質・能力に関する基準づくりを進めなければならない。
|