本研究は、対外認識育成をはかる外国史教育の内容構成原理を明らかにするものである。平成21年度は、昨年度に引き続きドイツにおける歴史学・歴史教育学領域に加え、日本における歴史学・歴史教育学領域に関して、現地調査やインターネットによる史資料の収集と分析を進めることを主たる目的とした。本年度の研究成果は、以下の三点にまとめられる。 第一に、ドイツ歴史学及び歴史教育に関し、ゲオルク・エッカート国際教科書研究所(Georg Eckert Institute)での調査研究活動では、蔵書及び資料収集を行った。同研究所では、19世紀末から世紀転換期のドイツで使用されていた歴史教科書が残存しており、歴史学研究と歴史教育の一断面を示す教科書との接続について、教科書執筆者を基軸とした関連性を確認しうる手がかりを得た。特に、当時の対外認識育成の枠組みとして、教科「世界史(Weltgeschichte)」並びに「文化史(Kulturgeschichte)」の教科書記述の構成や内容を確認できたことは成果であった。第二に、ドイツ歴史教育における「社会史」的のあり方を、「教師用指導書」に示された歴史教育内容と教授活動の構成という観点から考察し論文にまとめた。論文では、「社会史」を用いた歴史学習の成果とは、学習者が自ら歴史的世界像を獲得するための方法と史料考証の手法、そして判断力を身につけることであると指摘した上で、歴史的世界と現代社会との繋がりについて課題意識を探究しうる基礎的な資質を育成している旨を指摘した。第三に、日本の歴史学研究における「文化史」概念に関して、明治後期から昭和初期にかけて議論となる、歴史教育者の齋藤斐章が論じた戦前期の一学科目「世界史」をめぐる議論の出発点とその論争点に関する研究として整理し、報告発表を行った。
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