研究概要 |
本研究は、対外認識育成をはかる外国史教育の内容構成原理を明らかにするものである。平成22年度は、継続した課題となったドイツにおける歴史学・歴史教育学領域と日本との関わりを中心に、現地調査での史資料の収集分析を進めた。本年度の研究成果は、以下の二点にまとめられる。 第一に、ドイツ歴史学及び歴史教育に関する調査研究活動では、ゲオルク・エッカート国際教科書研究所(Georg Eckert Institute, GEI)及びライプツィヒ大学公文書館(Universitatsarchiv Leipzig, UAL)で、蔵書及び資料調査を行った。GEIでは、20世紀転換期前後のドイツ・プロイセン各地域及び各学校段階の教育課程を記録した教授活動計画(Lehrplan)を確認、整理した。さらに、関連資料として、当時のドイツ各州での教科書採用状況を整理した。これらの資料により、すでに調査を実施している歴史教科書の内容的考察に加えて、教科書の使用状況を加味することで、当時の歴史教育に関する状況をより具体的かつ多角的に考察可能となった。なおUALは組織移管作業中であったため、同時に整備されたウェブ上のアーカイブを通じてだが、歴史教育及び歴史学を学んだ三浦新七、新見吉治等日本人留学生の在籍期間と、その間の関連講義に関するデータベース調査に取り組んだ。 第二に、これら成果を踏まえ、世紀転換期ドイツの歴史教育変容を支えた教育制度改革について、中等教育段階の拡充、そして性差による歴史学習内容の相違に着目し論文をまとめた。ドイツでは、中等教育機会の拡大とその改革が男女の同権化を目指しながらも、根強い性別役割分業の思想から離れることができなかったため格差の保存を前提とした改革にとどまった。特に歴史教育では、女性の有する「妻・母・主婦」としての使命や役割モデル獲得に必要な道徳的側面が重視され、産業化の進行に合わせた自然科学に関する知識へのアクセスは非常に限られていた。
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