研究概要 |
本研究の目的は,従来の知能検査に関して,支援技術を適用の有無により被験者の「能力」がどのように変化するのか確認することで,被験者の認知的な困難と支援方法とを対応づけて議論できるような検査手続きを開発することにある.過去の知見の分析・整理や昨年度までの研究成果より,知能検査の目的が従来の知的障害の有無の確認から,学業および職業場面での適応能力の査定へと変化している現状を考慮する必要が明らかになっている.そのため知的・発達障害者の学業および就業場面でのつまずきと,必要な支援を簡単に査定する知能検査が必要であり,本研究はそれを行うものである. 本年度は学業および就業場面でのつまずきがある者(知的・認知に障害のある者)に対して,その背景にある認知的問題とその解決に有効な支援技術をマッチングすることを試みた.そのため,前述のつまずきを抱える者10数名に対して従来型の知能検査と支援技術を適用した知能検査を実施し,そのパフォーマンスの差異の分析を行った. 結果,知的・発達障害のある者の学業・就業場面でのつまずきを知能検査の課題としてリンクさせる手続きがいくつか明らかになった.例えば,実際場面でメモやノートをとれない者について,その背景の認知的な問題が,言葉を聞き取ることや文字を読むこと(知覚)そのものに問題があるのか,言葉や文字を頭で整理すること(認知)が問題なのか,あるいは書く行為そのもの(運動)が問題なのかを特定することができれば,それに応じた支援技術を適用することで,それら困難を解消することが可能になる.本年度の研究ではこれまでの知見から従来の知能検査手続きに少し工夫することで(先ほどの例だと,文章を短く区切って読んだり,視覚提示したり,口頭回答ではなくワープロで回答させたり)上記の問題解決が可能であることを示した.
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