研究概要 |
本年度(一年度)は,「大島の分類」1に該当する2名の重障児(事例A, B)を対象として, 各事例の脳機能障害実態の把握および働きかけに対する応答性の評価を行うとともに, 近赤外分光法(NIRS)による脳機能評価の有効性を検討した. 事例A(14歳・男性)は, 聴覚刺激に対する反応は比較的良好であるが, 後頭葉損傷による皮質盲状態を呈しており, 視覚刺激に対する反応はほとんどみられない. 一方事例Bは, 大きな音や閃光刺激に対し驚愕的反応がみられるなど, 視覚系および聴覚系が比較的保たれていると思われる事例である. 頭部CTスキャンにより脳の構造的病変について検討した結果, 事例Bについては比較的全脳が保たれていたが, 事例Aについては特に後頭部において顕著な灰白室の減少が認められた. 次に, 視覚系および聴覚系に関する行動反応の評価, およびNIRSを用いた生活関連刺激の受容態度に関する評価を実施した結果, 事例Aについては聴覚刺激に対し行動および聴覚関連領域の皮質ヘモグロビン濃度に明瞭な変化が生じたが, 視覚刺激に対しては行動反応がほとんどみられず, 脳血流変化もみられなかった. 一方事例Bにおいては行動上の変化は視覚, 聴覚ともに不明瞭であったものの, NIRS測定においていずれも持続的なヘモグロビン変化がみられ, 能動的に生活関連刺激を受容している可能性が示唆された. そこで, NIRS上応答性が不明瞭であった事例Aに対し, ワイヤレス心拍計を用いた日常場面モニタリングを試みた結果, 視覚刺激に対しても定位的減速反応がみられ, 受動的注意は向けられていることが明らかとなった. これらより, 心拍指標とNIRS指標による多面的評価から, 重障児の働きかけに対する能動性を詳細に検討できることが明らかとなった.
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