複素数体上の3次元射影空間内の3次曲面Xに対し、Xと重複度3以上で交わる点をもつ直線のなす代数多様体Yのホッジ構造を用いてXの幾何学的性質を記述することが研究の目的である。今年度は特に3次曲面Xが特異点として高々通常2重点しかもたない場合に現れる代数曲面Yの非特異極小モデルのホッジ構造を詳しく計算した。X上の通常2重点の個数は高々4個であるが、特にその個数が3個の場合にこのホッジ構造を用いた周期写像に関するいろいろな結果が得られた。この場合Yの非特異極小モデルはK3曲面となり、3次巡回群が作用するある種数2の代数曲線のヤコビ多様体のその巡回群の作用による商と双有理同値になることを示した。これによりYのホッジ構造の計算を種数2の代数曲線の上の周期積分に帰着させ、周期写像を具体的に調べることが出来た。Yの非特異極小モデルのネロン-セヴェリ群の階数は19または20であるが、どちらになるかを周期の値によって判定する方法を与えた。そして3個の通常2重点をもつ3次曲面をより悪い特異点をもつ代数曲面に退化させたときのこのホッジ構造に対するモノドロミー作用を計算し、古典的な楕円曲線と上半平面上の保型形式の理論の類似として、3個の通常2重点をもつ3次曲面に対する周期写像の逆写像をホッジ構造の分類空間の上の保型関数を用いて具体的に記述する結果が得られた。この計算がモジュライ空間の次元がより高い場合の周期写像の研究の手がかりになることが期待される。
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