研究概要 |
放物型概均質ベクトル空間とそのゼータ関数を軸に,代数的整数論・保型形式の研究を行っている.本年度の成果は以下の通り. 1. 2元3次形式のゼータ関数に関する双対恒等式について.昨年度から引き続く研究課題で,大野泰生氏(近畿大)との共同研究である.2元3次形式の空間に5種類ある全ての"整型(integral type)"に対し,ゼータ関数の双対恒等式(大野-中川関係式の類似)を得ていたが,合同部分群を用いてその明晰な証明を与えた.様々な整型があることは2元3次形式の空間の興味深い性質であるが,いずれの整型についてもゼータ関数が美しい性質を持つことが明らかになった.この成果は論文にまとめ投稿中である. 2. 概均質ベクトル空間の『軌道型L関数』について.概均質ベクトル空間におけるL関数は多くの先行研究があるが,私は本年度の研究において,アデリックなゼータ積分と自然に対応するものとしての『軌道型L関数』を定義した.この定義の中で合同部分群が自然に現れる.軌道型L関数を特に2元3次形式の空間の場合に詳しく調べ,関数等式の具体形や留数の明示公式を得た.これによってHurwitz型のゼータ関数についても解析的性質が明らかになった.またこの中で,双対恒等式をみたすゼータ関数を新たに組織的に構成できた.これらは概均質ベクトル空間のゼータ関数についての新しい知見であり,保型形式との関連を調べる上で示唆を与える結果と考えられる.また,代数的整数論への直接的な応用として,3次体の判別式に関するRoberts予想にも貢献があると考えられる.この成果は論文にまとめ,投稿する予定である.
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