モジュラー群に関する素測地線定理によって、不定値二元二次形式の狭義類数の和に関する漸近公式が得られることが知られている。この漸近公式は、ガウスによって予想され、ジーゲルによって証明された漸近公式と形は似ているが、和をとる順番が違うので、類数の分布を調べるための重要な比較対象であるといえる。本年度の研究では、類数全てではなく、特定の算術性をもつ判別式のみで類数の和をとったとき、その増大度はどのようになるか、を調べた。実は、同様の研究はすでに、2009年にRaulfによって行われており、増大度の主要項の係数の決定まで行われている。ただ、この係数の表示の仕方は、非常に複雑で、具体的にどのような値なのかを知ろうとするときに、さらに手間のかかる計算をしなければならない。また、誤差項の評価も大雑把である。本年度は、この漸近公式の係数のより簡明な表示を得たことと、誤差項の非自明な評価を行ったことが研究成果として挙げられる。アプローチとしては、モジュラー群を有限化した(主合同部分群で割って得られた)群上での、二次形式と素測地線との間の関係を明示的にあらわし、それをチェボタレフ型素測地線定理に適用する、という方法を用いた。このような研究は、跡公式・セルバーグゼータ関数・素測地線定理の古典数論への応用という観点で、重要であるといえる。
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