研究課題
Length spectrumは多様体上の素な測地線の長さの集合として定義される。とくに、双曲的な距離をもつ2つのコンパクトリーマン面に対しては、length spectrumが一致することと、ラプラシアンのスペクトルが一致することが同値であることが知られていることから、length spectrumは多様体の特徴づけという観点からも重要な研究対象のひとつであるといえる。本年度は、このlength spectrumの重複度の分布を、モジュラー群の合同部分群を基本群としてもつリーマン面に対して調べた。重複度については、Peter(2002)がモジュラー群の場合に、Lukianov(2007)が合同部分群のひとつであるΓ_0(n)の場合に、2乗和に関する漸近式を導いている。この漸近式の主要項にあらわれる係数は、Rudnick(2005)によって得られたラプラシアンのスペクトルに関するnumber varianceの公式にもあらわれることから、スペクトル的な観点からも意義深いと考えられる。本年度の研究では、PeterやLukianovの成果を、Schwarz-Spilkerによってまとめられた数論的関数の理論と、素測地線定理、そして、不定値2元2次形式に関する古典的な研究成果を用いて、「すべてのモジュラー群の合同部分群」、そして、重複度に関する「任意の冪和」に対して拡張し、漸近式の主要項を係数の明示的な表示を得ることができた。これによって、合同部分群に関するlength spectrumの分布の様子がより鮮明になったといえる。この成果を、非合同部分群を含む数論的な基本群に拡張すること、そして非数論的な基本群の場合と比較することが今後の課題である。
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