研究概要 |
曲面の写像類は、pseudo-Anosov(以下pAと略す),reducible, periodicの3つのタイプに分けられる. pA写像類の代表的な不変量として次の2つが挙げられる.1つはpA写像のdilatationとよばれる不変量ともう1つはpA写像類の写像トーラスの双曲体積である.本研究の目的はpA写像類の種々の不変量,特に上で述べたdilatationと体積の間の詳細な関係を明らかにすることである. 私は高沢光彦氏との共同研究において,magic manifoldとよばれる円周上の曲面束が許容するファイバー束構造を調べ,各ファイバー上のモノドロミー(pA写像)のdilatationを計算した.この研究の成果は小さなdilatation左もつ穴あき円板上のpA写像の族が,magic manifoldのモノドロミーの族として現れることであった(平成20年度の実績),曲面が穴あき円板に限られるとはいえ,小さなdilatationをもつpA写像の族が,たった1つの3次元多様体から得られるということは興味深い.この研究が終わった頃,Farb-Leininger-Margalitは次の結果を発表した:ある有限個の円周上の曲面束が存在し,小さかdilatationをもつ任意のpA写像(曲面は何でもよい)は,この有限個の中の,ある曲面束をDehn fillingしてえられる多様体が許容するファイバー上のモノドロミーとして実現できる.(彼らの結果には,どのような有限個の多様体がこの性質を持つのかは示されていないことを注意しておく.) 本年度は,magic manifoldのDehn fillingから得られる閉曲面上のpA写像の研究を行った.この研究の中で,小さいdilatationをもつ種数gの閉曲面上のpA写像がmagic manifoldのDehn fillingから得られ,その結果,種数gの閉曲面上のpA写像の最小のdilatation(これを1_gと表す)の上からの評価を得た.また1_gの漸近的挙動に関してある知見を得た.さらに種数7の閉曲面上のorientable stable foliationをもつpA写像の最小のdilatationを決定することが出来た.
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