情報セキュリティへの離散数学の応用研究を行った。具体的には、相互に関係の深い以下の4種類の研究を行った:1.暗号アルゴリズムの生成と評価、2.シミュレーションのためのグラフの分散彩色研究、3.誤り訂正系列符号の存在性と電子署名への応用、4.ランダムウォークによる擬似乱数と暗号の乱数性の評価。 暗号や擬似乱数に代表される数論的アルゴリズムは、世界中の純粋数学及び応用数学の研究機関が興味を持っている分野である。しかしながら、現代の研究は純粋理論なら純粋理論に特化し、実用分野なら実用理論に特化する傾向が強い。また、それらを結びつけるはずの応用数学研究も純粋理論にまで深く切りこむものは少ない。本研究テーマは、「先端的純粋数学理論を実用の視点から眺め研究し、実際に用いられるところにまで到達させる」ことを目的とした研究を行った。 具体的には、それぞれ次のような成果が得られた。1、4:暗号用擬似乱数発生アルゴリズムの乱数性についての評価を行い、検証を続けている。2:擬似乱数発生法の並列化の際に独立性を保障する彩色問題の研究をすすめ、分散彩色の評価方法を提案した。その妥当性を検証するための研究を続けている。3:射影ド・ブライン系列を用いた誤り訂正符号系列の生成に関する研究を進め、有限体上の既約多項式の係数についての存在条件を証明した。 また、これまでの研究を踏まえて、離散数学を情報セキュリティに応用しやすい形で解説する著書「暗号のための代数入門」を執筆した。
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