研究概要 |
本年度は,多倍長計算によって丸め誤差の挙動を事後誤差解析で調べる手法を提案し,典型的な非適切問題として知られる逆Laplace変換の数値解法に適用した.数値的に不安定な問題においては丸め誤差が深刻な影響であることは知られているが,その挙動を数学解析的に厳密に論じることは非現実的であった.この点に対し,本研究課題において中心的役割を果す多倍長数値計算環境をもちいることにより,丸め誤差の挙動を精密に論じることが可能であることを示した. 具体的には,逆Laplace変換手法のうちBromwich積分の数値的取り扱いとして国内の工学分野の研究開発で広く利用されている細野の方法,および近年,ソウル大の申東雲を中心として提案された手法のふたつを取り上げ,それぞれの数値計算結果に本研究で提案する事後誤差解析を適用し,数値的不安定性の視点からそれぞれの計算法の比較をおこなった.その結果,細野の方法は人工的なパラメータによって安定な近似スキームを構成するものであるが,高精度な安定化ほど不安定になることがわかり,安定性の度合については逆像を求める点の値に依存しないことが示された.一方申東雲の方法は,逆像を求める点の値が大きくなるほど不安定であることが示され,この結果は,逆像を求める点に依存してBromwich積分の積分路の選択に注意を要することを示唆すると考えている. 本研究課題で提案する手法は,複数の計算精度結果を比較して誤差の増大を論ずるものであり,浮動小数点演算を利用する計算手法であれば線型・非線型問題のいずれにも適用可能である.厳密な評価のため,区間演算の併用が今後の課題であると考えられる.
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