研究概要 |
確率微分方程式(SDE), より広くはセミマルチンゲール統計モデルに関する統計解析手法の構築に関して, 本年度は特に以下の結果を得た. いずれも, 当初の研究目的で述べた「提案手法の理論的正当性および実装(または条件の検証)の容易性」を満足するものである. (1)広範な多次元セミマルチンゲールの族に対し, Multipower variation(MPV)を利用して, 第二特性量行列の一致推定量に対し, ランダムな規格化および安定弱収束定理を介して漸近多変量標準正規性を導出した. これにより, 全要素の同時信頼領域を直接的に構成できる. (2)局所的に有限回なジャンプを持つSDEモデルのエルゴード性および積率の(時間に関する)有界性のための十分条件を導出した. 条件は確率的な記述を一切含まず, 初等的な演算のみで検証できる. これは当該モデルに関する統計解析のみならず, 純粋確率論の分野でも様々な応用を持つと思われる. (3)MPVを利用して, 特に日本市場の高頻度経済データ系列におけるジャンプ検出の実証分析を行った. MPVの次数の選択基準として, 有限標本においては理論的に許容される最小整数が最も良い推定精度を示すことを数値実験で示し, 実証分析で用いた次数の根拠とした. (4)非正規安定型モデルに関する推測理論の構築に関して, 対称な場合の推定法の拡張を定式化し, 数値実験でその妥当性を確認した. (5)非正規ノイズSDEの推測に先駆け, レヴィ過程で駆動されるSDEのある族に対し, 駆動過程の正規性検定を定式化した. 得られた検定統計量は計算容易であり, 更に漸近的にモデルフリーかつ任意のジャンプ要素の存在に対して一致性を有するもので, 高い汎用性を有する[学術論文誌へ投稿中]. 本結果による正規性の棄却は, 応用において非正規ノイズを用いる妥当性の根拠となる.
|