研究概要 |
ジャンプ付き確率微分方程式(SDE)モデルの統計解析手法の構築に関し,本年度の主要結果として以下の四項目を得た.いすれも当初の研究目的で述べた「厳密な理論的背景を有する実装容易な手法の開発」という本研究の主旨に沿った内容である(項目4のみ比較研究であるが,手法の実装の観点から新たな知見を得た). 1.ノイズが加法的に加わる一次元SDEを高頻度に観測する枠組みで,ノイズレヴィ過程のJarque-Bera型正規性検定統計量の漸近帰無分布,および任意の対立仮説(何らかのジャンプ部分が存在)に対する一致性を導出した.微調整パラメータ不要な実用的な検定手法であり,SDEモデル評価手法の構成に貢献できた. 2.不連続オルンシュタイン-ウーレンベック過程の高頻度観測ドリフト推定について,絶対最少偏差型確率場に関する多項式型大偏差不等式を導出した.更に,推定量の漸近正規性と近似信頼区間の構成方法を示した.本手法はジャンプ構造のモデル誤特定に対して頑健であるという利点を持つ. 3.Meixnerおよびnormal inverse Gaussianレヴィ過程の高頻度観測モデルにおける尤度比確率場の漸近挙動を導出した.パラメータの収束率の差異や漸近直交性・退化性といった性質が明らかになり,最尤法の実装における理論上の利点・欠点を浮き彫りにできた. 4.Tempered stable (TS)レヴィ過程の微小時間増分の乱数生成に関し,特に計算量という従来にはない要素を取り込んだ上で,実用性の観点から様々な手法を比較・解析した.特に無限変動の場合,従来のTS乱数生成理論では級数表現を介した生成法が推奨されていたが,計算負荷(乱数生成スピード)と分布精度の双方の観点から,Baeumer and Meerschaert (2009)の近似棄却法が実用上最も好ましいことを示した.
|