研究課題
ある地点における1時間ごとの風向を記録したデータや、渡り鳥の移動方向を一定時間おきに記録したデータは、個々の観測が円周上の点として表されることから、円周上に値をとる時系列データとみなすことができる。このような時系列データのために有用となるモデルを考えることは、統計学における1つの問題であった。そこで私は、平成20年度、円周上に値をとる自己回帰過程の提案とその性質に関する研究を行った。特に、自己回帰過程の特別な場合であるマルコフ過程に着目し、主にこのモデルの性質について調べた。提案したマルコフモデルは、「11.研究発表(平成20年度の研究成果)」に紹介した論文「ACircular-Circular Regression Model」で提案した回帰モデルを応用することにより導出した。この回帰モデルは、説明変数・被説明変数が共に円周上に値をとるモデルである。そのモデルにおいて、説明変数を時間nにおける状態X_n、被説明変数を時間n+1における状態X_<n+1>と置き換えることによりマルコフ過程を得た。また、この確率過程の誤差項としては、上記論文の回帰モデルの誤差分布と同様に、wrapped Cauchy分布(以下、WC分布)を仮定した。私は、提案したマルコフ過程に幾つかの望ましい性質が成り立つことを示した。例えば、提案したモデルにおいて、時間tにおける状態W_t=W_tを所与としたときの、時間t+hの状態W_<t+h>の条件付き分布はWC分布に従う。また、この確率過程の定常分布がWC分布となることも証明した。モデルの応用例として、米国、テキサス州にある気象観測所で記録された風向の時系列データへの当てはめを行った。幾つかの情報量規準の比較において、私が提案したモデルの方が、Fisher and Lee(1994)によるモデルよりも、よい当てはめを与えることがわかった。
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