1.研究成果の内容:ハートリー方程式は、量子力学における多体問題の近似方程式の1つとして知られている。本年度の研究では、ハートリー方程式の解の散乱状態から決まる「ある量」が小さければ、方程式に含まれる未知のポテンシャルも小さくなるか、という逆問題の安定性について考察し、安定性が得られるような「ある量」を具体的に定め基本的な計算を行い、今後の研究の指針を与えた。 2.意義:ハートリー方程式のみならず、非線形偏微分方程式の散乱の逆問題の安定性に関しては、驚くべきことにほとんど注意が払われなかった。今年度の研究で得た基本的方針は、今後の非線形偏微分方程式の散乱の逆問題の研究をさらに発展させる契機となる。 3.重要性:逆問題の安定性の問題とは、数学的にいえば、散乱データから未知のポテンシャルへの写像が連続かという問題である。写像に関する基本的性質を調べることは数学上重要である。また、この写像が連続であることがわかると、計測データに対する未知ポテンシャルの誤差評価がわかるため、応用上も重要である。
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