非圧縮性粘性流体の運動を記述するNavier-Stokes方程式の研究を、流体の占める領域が二枚の平行な板の間である場合に行った。平行平板間における流れの解析は物理的な問題として重要であり、また数学的立場からいえば境界が有界でない典型的な例である。まさに実解析的方法の発展により数学的な解析が可能となった分野である。 平成23年度は、前年度からの継続として平板上に存在する非圧縮性粘性流体の自由境界問題の解析を行った。今年度は有界な部分では必ずしも平板上ではなく、単に滑らかな境界をもつ領域とした場合を扱い、昨年度と同様の時間局所解の一意存在を証明した。また、小さな初期値に対する時間大域解の一意存在についても同様の結論が得られた。証明の基礎となったのは、一方の板の上でDirichlet境界条件、もう一方の板の上でNeumann境界条件を課した場合のStokes方程式の初期境界値問題に対する解のmaximal regularity評価である。この評価については、無限時間区間において指数減衰性が成り立っため、特に時間大域解の一意存在を示す際に有効に用いられた。また、平行平板間において回転効果を考慮したRotating Navier-Stokes方程式の解析を行い、初期値が周期的な場合に時間局所解の存在が得られた。 一方、平行平板間におけるStokes作用素がソレノイダルかつ本質的に有界な関数空間において解析的半群を生成するか否かについては、圧力の評価に依然として困難な部分が残ってしまい、最終結論には至らなかった。今後の継続課題としたい。
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