今年度の研究では、有理型量子Knizhnik-Zamolodchikov方程式(有理型qKZ方程式)の特殊解の構成を行った(筧三郎、西澤道知、斎藤義久各氏との共同研究)。この方程式は、可積分な量子スピン鎖であるXXX模型の相関関数や、SU(N)不変Thirring模型の形状因子が満たすべき方程式として知られているものである。以前の研究で、非対称マクドナルド多項式を用いてqKZ方程式の特殊解を構成することに成功したが、この手法を有理型qKZ方程式の場合に適用することで、ある可換な差分作用素の組に対する固有値問題の解を見つければ、有理型qKZ方程式の解を構成できることが分かる。我々は、この固有値問題が、有理型qKZ方程式のパラメータ(レベル)がある特定の値のときにのみ非自明な多項式解を持ち、その解はshifted非対称ジャック多項式と呼ばれる多変数の特殊多項式で与えられることを証明した。この証明の鍵となるのはKnopによるinversion formulaである。これは、非対称Jack多項式とshifted非対称ジャック多項式を結びつける公式である。これを退化アフィン2重ヘッケ代数の表現論の枠組みで捉え直し、Dunklによるsingular polynomialsの空間の記述を利用することで、我々の結果が自然に得られる。 以上のようにして得られる有理型qKZ方程式の特殊解は、Di FrancescoとZinn-Justinが構成した0(1)ループ模型の基底状態(の有理退化極限)を含む。この中には、代数群の幾何学に関係するジョセフ多項式のある種の変形が現われることが知られており、我々の結果は、それがアフィン2重ヘッケ代数の表現論の枠組みで捉えられることを示唆している。
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