研究概要 |
本年度の研究成果は以下の通りである。(1)野村祐司氏との共同研究によるユークリッド平面上のランダムなδ磁場を持つシュレディンガー作用素に関する研究。特にリフシッツ・テイルの証明、ランダウ準位が無限多重度の固有値となるための定数磁場の満たすべき十分条件、ランダウ・ギャップの状態密度の評価を与えた。これらは未解決問題である「ランダム磁場によるアンダーソン局在」の理論において、基礎をなすべきものである。(2)岩塚明氏・島田伸一氏との共同研究による、三次元空間のトーラス内に台を持つ磁場を持つシュレディンガー作用素の、トーラスの太さがOに収束する極限におけるノルム解核収束に関する研究。これは、外村彰氏らによるアハラノフ・ボーム効果に関する実験の数学的解析を意図している。(3)ポアンカレ平面上のδ磁場を持つシュレディンガー作用素のスペクトルに関する研究。特に、δ磁場が有限個存在するとき、あるいはδ磁場の分布が群SL(2, Z)の離散部分群の作用により不変な離散集合であるときに、そのランダウ準位の多重度、ランダウ・ギャップ中の固有値数について調べ、ユークリッド平面の場合と類似の結果が成り立つことを証明した。これは、現在磯崎洋氏らにより進められている双曲空間上のシュレディンガー作用素の研究に寄与するものである。上記の成果について下記雑誌論文で発表し、さらに研究集会「Spectral and Scattering Theory for Quantum Magnetic Systems」(2008年7月Luminy, France)、「夏の作用素論シンポジウム」(同9月佐賀市)、日本数学会秋季総合分科会(同9月東工大)、「ランダム作用素のスペクトルと関連する話題」(同11月京大)などにおいて学術講演を行った。
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