研究概要 |
本年度は京都工芸繊維大学の若手教員海外研究派遣事業参加のため、チェコ共和国のDoppler Instituteに滞在しての研究活動を行った。Czech Technical UniversityのPavel St'ovicekとの共同研究を行い、(1) 双曲上半平面におけるPauli作用素のzero-modeの重複度、(2) ユークリッド平面上のAharonov-Bohm型磁場を持つSchrodinger作用素の解核のSchulman公式による表示に対する数学的定式化についての研究を行った。また愛媛大学の野村祐司との共同研究により、(3) 双曲上半平面における定数磁場とAharonov-Bohm型磁場を併せ持つSchrodinger作用素のランダウ準位の重複度の研究を行った。さらに、(4) 一般のリーマン多様体上でのAharonov-Bohm型磁場を持つSchrodinger作用素の自己共役拡張に関する研究を行った。 上記のうち、(1)、(3)は密接に関わり合う問題であり、超対称性の破れなどとも関連する重要な課題であるが、単に数理物理学的な興味のみならず、その解析には数論、特に保形関数の理論も用いられる点で興味深い問題と言える。この研究により、Geyler-St'ovicekが2006年に得たzero-modeの多重度が無限大になるための十分条件を精密化し、必要十分条件を求めることが出来た。(2)についてはKocabova-St'ovicekによる結果に基づいているが、Schulmanの公式における普遍被覆空間の代替として、近年砂田らにより研究されている極大Abel被覆を用いることによりSchulmanの公式の変形を示し、それによってAharonov-Bohm型磁場を持つSchrodinger作用素の解核の表示を得ることに成功した。これにより、難問として知られる複数のAharonov-Bohm型磁場を持つSchrodinger作用素のレゾナンスの問題の解決への一助となることが期待されている。(4)については、Dabrowski-St'ovicek, Exner-St'ovicek-Vytras, Lisovyyらによって個々に得られていた作用素の自己共役拡張に関する結果を統括し、より統一的な視点を与えたとして、意義深い結果と言える。
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