研究概要 |
Allen-Cahn方程式を含むスカラーの双安定反応拡散方程式において, 拡散係数が十分小さい場合, 空間内の狭い範囲で急激に値が変化する遷移層という形状をもつ解が現れる. その遷移層をもつ解のダイナミクスの解析や定常解の構成は様々な観点から研究が行われてきた. 本研究では, 単独の双安定反応拡散方程式を1次元の数直線上で考え, 方程式に空間非斉次性を含み, その空間非斉次性が空間内のある区間上で消えている場合, その区間上における遷移層のダイナミクスについての研究を行った. このように空間非斉次性がある区間で退化している場合, その区間上での遷移層のダイナミクスは指数的に遅く, very slowと呼ばれ, 理論的な解析がほとんどできない状態であったが, 本研究において, 方程式中の空間非斉次性を表す関数が退化している区間の両端における振る舞いが遷移層のダイナミクスに影響を及ぼすことがわかり, その情報を含む形で遷移層のダイナミクスを表す方程式を導出することに成功した. 今回の研究のように空間非斉次が一定の区間で退化している場合, それを空間非斉次性のない方程式からの摂動と捕らえることによって, 九州大学の栄伸一郎氏により開発された反応拡散方程式の局在パターンのダイナミクスを解析する不変多様体の手法を用いることが可能となり, 考えるべき線形化固有値問題が飛躍的に容易となることが鍵となった. 本研究成果は学術論文「The motion of a transition layer for a bistable reaction diffusion equation with heterogeneous environment」としてまとめ, プレリントシリーズ及び学術雑誌に投稿した. また, 日本数学会2009年度年会(函数方程式論分科会)において報告した. 現在, 本研究の手法が空間非斉次性を含む反応拡散系(system)の場合へ応用できることがわかり, 現在研究を進めている.
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