クェーサーの狭輝線放射領域の起源と進化を明らかにするには、まずそれ自身の物理的特長を明らかにする必要がある。本研究では、近傍と遠方とでその特徴がどのように変化しているのか、あるいはどの程度普遍的なのかを明らかにすべく、まず、遠方クェーサーの狭輝線放射領域のサイズを測定する。そして、そのサイズとクェーサー自身の光度の持つ相関関係を通じて、狭輝線放射領域の空間構造とその進化、ひいてはクェーサー自身の進化に迫ることを目的としている。 本年度はまず、研究代表者を中心として得られた、重力レンズ現象を受けた遠方クェーサーの近赤外線三次元分光データの解析を行った。期待していた狭輝線放射領域の空間構造が、連続光放射領域の空間構造と異なる様相を示していることが、観測データから見て取れた。しかし、近赤外線における観測データは夜光の影響が無視できないにもかかわらず、解析の過程で夜光の差し引きに問題があることが判明したため、観測データを用いた狭輝線放射領域のサイズ測定についての定量的な議論にまだ進めていない。 一方で今回、遠方天体をより効率よく観測するために重力レンズ現象を用いている。重力レンズ現象は増光や像の変形を引き起こすが、その影響を正しく把握しなければ、観測量から正しい物理量を引き出すことはできない。そこで、実際に前述の観測データを得た天体について、点源と見なせる連続光放射領域の位置データをもとに、重力レンズ現象を引き起こしている銀河の質量分布の理論モデルの構築も行った。
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