本研究では、国立天文台の超長基線電波干渉計(VLBI)VERAを用いて、水メーザー(水分子が出す波長1.3cmの強い電波)が付随する太陽系近傍(距離1kpc=3260光年以内)分子雲の距離を年周視差計測によって高精度で決定することを目指している。これにより、太陽系近傍分子雲での星・惑星系形成研究の高精度化に貢献することを目指す。また、銀河系渦状腕の1つである局所腕の運動と構造の解明にも寄与する。昨年度は、太陽系近傍分子雲の水メーザー源(約100天体)について、VERAの20mアンテナを用いたモニター観測を開始し、この結果に基づいて強度が強くなった4天体についてVLBI観測を開始した。また、先行して観測を継続していた天体L1204Gについてデータ解析を完了し、距離計測の論文を発表している。この成果は、L1204Gのあるケフェウス座分子雲の距離を764+/-27pc(誤差3.5%)という高精度で計測した初めての論文であり、今後のこの領域の研究で重要な参考文献となりうる重要な成果である。また、昨年度の研究期間開始前には、これまでの磁気テープ記録に代わってハードディスクにデータを記録するVLBI観測に成功し、実用化の目途が立っている。そのため、昨年度は記録メディアにテープではなくハードディスクを購入し、大学連携VLBI(OCTAVE)での試験観測も行った。今年度以降、ハードディスクを用いた高感度な観測により、計画中のVERAによる水メーザー観測と合わせて、連続波検出による近傍星形成領域の位置天文観測へも発展することが可能であることを実証した意義は大きい。
|