自然界に存在するアクチノイド元素(トリウムおよびウラニウム)は、すべて爆発的な重元素合成(r-プロセス)で合成されたものであるが、この元素合成に対応する天体現象が特定できず、したがって機構も不明なままである。この状況を打開するには、r-プロセスによってつくられる元素組成や、銀河のなかでの重元素の蓄積過程を観測的に決めることが重要である。アクチノイド元素トリウムをはじめとする重元素の吸収線スペクトルを精度よく測定するために、国立天文台のすばる望遠鏡・高分散分光器を用いて、銀河系ハロー構造および厚い円盤構造を代表するとみられる星の観測をすすめた。効率的にトリウムその他の重元素の検出を行うことが可能な有効温度範囲(4000〜4500度)の星のスペクトルを取得し、過去の申請者らの観測で得られたスペクトルを合わせると30天体以上のサンプルを用意することができた。これらのテータの解析を行い、一部の天体についてはトリウム組成の決定を行い、研究会にて発表した。本研究で扱っている天体は、過去の研究がカバーしていない金属量領域に属しており、天体数としても比較的多いものなるため、銀河系ハローにおける重元素の蓄積過程を明らかにする点で重要なサンプルとなる。関連して、アクチノイド合成と関係の深い鉛の組成測定については本研究以前から取り組んでいたが、その結果の一部を本研究の一環としてまとめて、論文出版を行った。
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