神岡の実験などの地上実験により、ニュートリノが質量を持つことが分かっているが、その絶対値は未だ不明である。宇宙の構造形成は、膨張宇宙において暗黒物質の自己重力の不安定性により、暗黒物質の分布におけるゆらぎが成長することで起こる。現在の構造形成の標準的シナリオでは、重力のみで他の粒子と相互作用し、熱的速度が非常に小さい、すなわち冷たい暗黒物質がこの構造形成過程において主要な役割を果たしていると考えられている。このとき、質量を持つニュートリノも重力源の一部を担い、暗黒物質のように振る舞うが、その速度分散は非常に速い、すなわち熱いため、宇宙の階層構造の形成過程について特徴的な痕跡を残す。この理由で、宇宙論データを用いた宇宙階層構造の特徴の測定から、ニュートリノの質量について制限することが可能になり、現時点では宇宙論実験が地上実験よりも厳しい質量の上限を与えている。我々は、この混合暗黒物質モデルにおける構造形成を記述するための解析的理論モデルを構築している。これは、宇宙論における摂動理論を適用したものである。さらに特筆すべきは、この理論モデルに摂動論の枠組み内で無矛盾に銀河バイアスの不定性を考慮することに成功した。この新モデルにより、ニュートリノの構造形成への影響が、弱非線形段階では増幅されること、またそれにより銀河サーベイからニュートリノ質量を制限する際の精度が改善することを示した。さらに、この理論モデルを実際のSDSS銀河サーベイデータと比較し、非線形重力および銀河バイアスの系統誤差を考慮したとしても、3世代ニュートリノの質量和が0.81eV(95%C.L.)よりも小さいという上限値を導出することに成功した。
|