宇宙では、様々なスケールの物理現象が互いに影響を及ぼしながら絶えず起こっている。その中でも、最も壮大なスケールの物理を対象とするのが宇宙論であり、最も基本的な最小スケールの物理が素粒子物理そして超弦理論であると言えよう。重要なことは、ノーベル賞受賞の理論物理学者Sheldon Glashowが著書で述べているように、この両極端の物理は繋がっている、繋がらなければならない、ということである。生まれたばかりの宇宙は超高エネルギーの極限的状態にあるため、ミクロの物理が本質的になるからである。弦理論的宇宙論は、最小スケールの物理を記述する超弦理論を用いて宇宙論の謎に迫る試みであり、近年急速に発展している分野である。本研究の目的は、超弦理論によって宇宙より深い理解を得ることである。 宇宙の創世と進化について理解を深めるには、基礎理論から出発して観測との比較や新しい予言を行うトップダウン方式と、観測データから背後にある普遍的法則を導き出すボトムアップ方式の両方が必要である。また、揺るぎない予言をするには、(少なくとも)2つの立場がある。1つは、低エネルギー有効理論における対称性または対称性の破れのパターンを用いて、量子論的に安定な議論を展開することである。もう1つの立場は、超高エネルギーの基礎理論に立ち返って、そこから帰結される予言を引き出すことである。私は、これらを相補的に用いて研究を推進していきたい。 具体的には、(1)弦理論的インフレーション宇宙モデルの構築、(2)Multi-throat宇宙における再加熱の問題、(3)ブレーン宇宙における重力、(4)弦理論と重力のヒッグス相、の4課題を並行して行う。
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