申請者は、LHC-ALICE実験において電子同定を主たる役割にもつ遷移輻射検出器(TRD)の研究開発に携わってきた。平成20年度は、CERNに滞在し、実験エリアへのインストール前のTRD検出器の読み出し回路の動作確認、ガスや冷却システムの動作確認を行い、実験エリアへのインストールとコミッショニングを行ってきた。この動作確認中に、多くのTRDモジュール内でガスリークあることが判明し、その修正に多大な時間が必要であった。また、その一方で、読み出し回路制御のためのソフトウェアー開発をCERNや日本で進め、その評価と実装を行った。 平成20年9月に生じたLHCの事故を受け、当初の実験予定に大幅な遅れが生じたため、平成20年度におけるデータ解析は主にモンテカルロシミュレーションを用いて、TPCによる飛跡再構成能力の評価、TRDにおける電子同定能力の評価、クォーコニウム(J/ψ、γ)の電子対崩壊に対するアクセプタンスや、10TeV陽子+陽子衝突におけるクォーコニウム測定の現実性(S/N比、予想系統誤差)を評価した。これは本実験データを解析する上での基礎研究となっている。そして、この成果は平成20年度の秋の日本物理学会で報告された。 LHC-ALICE実験でのデータ解析やデータ再構成にはグリッドコンピューティングシステムが採用される。LHC-ALICE実験の解析に向け、計算機関連のインフラストラクチャーの整備や、グリッド使用に向けた解析環境整備も開始した。
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