本年度は中重核領域の原子核構造を原子核殻模型の観点から研究するため、粒子数と角運動量の変分前射影法によるハートリーフォックボゴリウボフ計算コードを開発し、スズの同位体に適用した。 近年、スズの同位体のE2遷移が実験的に計測され、陽子数と中性子数が近い領域では、E2遷移確率が安定核近傍から予測される振る舞いとは異なり、異常に大きくなることが確認されている。 本研究では、この現象を、粒子数と角運動量の変分前射影法によるハートリーフォックボゴリウボブ計算をおこなうことによって、原子核殻模型の観点から微視的に研究した。まず、スズ100を閉殻とする計算により、上記コードが厳密対角化計算の結果をほぼ再現することをたしかめた。さらに、スズ100を閉殻とせず、ジルコニウム80を閉殻とするようなより広い模型空間をとる計算をおこなうため、上記計算コードが、本来不要である重心運動に相当する波動関数をラグランジュ未定乗数法により除去できることを確かめた。これにより、質量数100近傍のスズの同位体では、0g9/2軌道からの粒子ホール励起が重要な役割を果たし、集団運動性が高くなるため、E2遷移確率が大きくなることを示唆した。 また、10年来有用に使われていたモンテカルロ殻模型法のプログラムをまったくの0から書き直し、最新のスーパーコンピュータに使えるよう移植した。この計算プログラムは従来の2倍の高速化をはたし、中重核領域のみならず、軽い核の閉殻を仮定しない計算にも新たな進展が期待できる。
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