超低エミッタンス電子ビームの生成に必要となる条件の一つに、電子銃における空間電荷効果によるエミッタンス増加の抑制があり、負の電子親和性表面を持たせたGaAs表面より生成した低エミッタンスの電子ビームを500kV以上の加速電圧で加速することが求められている。一方で高電界環境となる電極間では、電界放出暗電流が発生し、真空度の悪化やイオンの逆流の影響によりカソード寿命が短くなる問題が発生するため、電極には暗電流を低く抑えられる材料、加工が要求される。 暗電流の抑制に効果的な材料としてチタン、およびモリブデン材に注目しERL用電子銃の設計および試験用電極の製作を行った。モリブデン製カソード電極に関しては、電子銃の真空開放後の再エージングでは、放電1回あたり約0.4kVの放電電圧の向上を再確認した。JAEA500kV電子銃にてカソード電極上の表面電界強度が10MV/m以下をほぼ満足する電極・ガードリングの設計が行われ、500kV電子銃の電極・セラミック管のガードリングとしてチタン材を採用し、500kV印加に初めて成功した。セラミックの分割構造の他に、チタン材の暗電流抑制の効果も影響していると考えられる。 KEKにて進行中の500kV電子銃開発においては、真空容器にチタン材を採用しており、E-11 Pa.m/sレベルの低いガス放出速度を実現するとともに、アノード側となる真空容器がチタン製となることから、従来のステンレス製真空容器で構成された電子銃よりもより暗電流を低く抑えられる可能性があると推測している。
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