世界最高エネルギーの粒子加速器LHCは2009年末に稼働を開始し、現在、3.5TeVという人類未踏のエネルギーに加速した陽子を衝突させることで物質の起源解明に向けたあらたな実験を開始した。LHCf実験は衝突後最前方に放出される粒子を観測することで、宇宙からやってくる超高エネルギー宇宙線と地球大気の反応を理解するための実験である。 ところで、地球大気の主成分は陽子ではなく窒素原子核である。宇宙線も陽子ではなくもっと重い原子核である可能性も示唆されている。宇宙線と大気の反応を理解するためには、LHCにおいて原子核衝突実験を実施する必要がある。本研究は将来のLHC原子核衝突における実験提案にむけた準備研究である。以下の2つの視点から研究を行った。 1、シミュレーションによる原子核衝突実験の検討。窒素原子核衝突のシミュレーション計算を行い、現在陽子衝突用に設計されたLHCf実験から大きな変更なしで重要な測定ができることを証明した。実際には相互作用モデル依存性が大きいこと、粒子多重度が十分に小さいこと、を確認した。しかし、測定器の放射線被曝が大きいこともあきらかになった。 2、耐放射線検出器として、GSO結晶シンチレータの特性試験を行った。波形、発光効率、放射線耐性ともに、現在使用しているプラスチックシンチレータの代替品として十分な性能を備えていることを確認した。 期間最後に、CERN研究所で行われた将来のLHC原子核衝突検討会で、研究協力者のDaniela Macinaが本将来計画の案を披露した。
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