高温高密度ハドロン物質は、温度あるいは密度をあげていくと、物質の構成要素であるクォークとグルーオンが解放された「クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)」になる。QGP探索はアメリカ・ブルックヘブン国立研究所の衝突型加速器RHICで行われており、実験的にQGPが生成された間接的証拠が多数見付かつている。そこで次なる問題は、衝突実験で作られる乱雑な物質が、どのようにして熱平衡状態に到達するか、という疑問である。まず初期状態である乱雑な物質を記述するような理論的アプローチが必要であり、そのような枠組みは「カラーグラス凝縮(CGC)」として知られている。そこで今年度(平成20年度)は、CGCに基づく有効模型を使って、重イオン原子核衝突の初期状態を理論的に記述し、時間発展を解析的に追いかける方法を開発・提唱した。得られた結果は数値シミュレーションと合致しており、理論の正当性が確かめられた。また、熱平衡状態に達した物質が、膨張とともに辿る時間発展を調べるために、QGPの状態方程式を良く記述するカイラル有効模型を用いて相転移近傍の熱力学量を計算した。特に一次相転移線の終端点に現れる二次相転移臨界点と、軸性量子異常との関係を明らかにした。
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