研究課題
強い相互作用するクォーク・グルーオン物質の性質について、特に強磁場中での振る舞いに注目して研究を進めた。相対論的重イオン衝突実験初期には、中性子星表面磁場の10~100万倍強い磁場が生成されることが分かっている。このような強磁場中で、トポロジカルな転移が起きると「カイラル磁場効果」と呼ばれる現象のため、磁場と並行な方向に電流が流れる。実際の重イオン衝突実験では、電流そのものが観測されることはないが、電流によって引き起こされる電荷非対称性の揺らぎが、カイラル磁場効果の傍証であると考えられている。最近、RHICと呼ばれる加速器で、トポロジカルな効果を取り入れない理論計算では説明のつかない電荷非対称性の揺らぎが観測された。このような観測に対して理論計算を確立することは理論側の急務である。本年度の研究では主に、理論計算を進めるための定式化の整備と、バックグラウンド効果の計算を進めた。カイラル磁場効果の実験的検証は、クォーク・グルーオン物質中に、トポロジカルな励起が存在していることを顕著に示す実験的証拠として、きわめて重要である。特に磁場と絡み合って電流が流れるためには、質量がゼロあるいは無視できるほど小さいカイラルクォークの存在が必要であり、逆に、カイラル磁場効果を検証できれば、カイラル対称性が回復することでクォークがほぼゼロ質量になっている、ということを示す実験的証拠だといえる。さらに強磁場中ではクォーク・グルーオン物質の相構造そのものが変更を受ける可能性もあり、非閉じ込め相転移の効果を取り入れたカイラル有効モデルを用いて、そのような可能性を調べ、非閉じ込め相転移とカイラル相転移とが乖離する可能性を指摘した。
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