本研究では、10〜100Kの低温表面に水素ビームを入射することで、より現実の宇宙空間における反応条件を再現し、低温表面での水素分子形成のメカニズムの解明を行っています。 1. 新設したQMSチャンバーによって、バックグラウンドの効果が低減し、表面反応による分子を測定しやすくなりました。そこで、金属Ru単結晶表面における水素引き抜き実験を行い、従来報告されている水素引き抜き反応とは異なる結果が得られました。重水素(D)原子を表面に満遍なく吸着させた基板に対して、水素(H)原子を照射し、水素引き抜き実験を行うと、HD分子とD_2分子が生成されます。今まではHD分子は直接原子が衝突することで分子を形成し引き抜き、そしてD_2分子は表面のD原子をH原子がはじき出し、はじき出されたD原子が表面上のD原子を引き抜くと考えられています。しかし、今回得られた結果は従来の報告と異なり、高い反応次数を示す挙動を示しており、これに対して現在いくつかの反応モデルを組み合わせた、新たなモデルを提起しています。 2. 水氷基板の作成でアモルファス表面及び結晶表面が必要であるため、これらの作成条件を導く実験を行いました。その過程で、単純な作り分けが困難であったため、アモルファス水氷を完全に結晶化させることが可能であることが分かったため、この結晶化の過程を基板準備実験の一環として行いました。 これらの結果から、水氷表面の構造の違いによる水素引き抜き反応を調べることができるようになり、宇宙空間での水氷表面の反応メカニズムの詳細を決定できる研究が行えるようになりました。
|