本研究は、宇宙の局所非一様性に関する観測データを用いて、ダークエネルギー、ダークマター(暗黒物質)のモデル、および重力理論の変更によって宇宙の加速膨張を説明する代替重力理論に新たな制限を付けることを目的とする。本年度の研究成果は以下の通りである。 (1)SDSS-LRGカタログとWMAPのデータを用いたスタック解析(Granett et al.2008)から示唆される積分ISW効果による温度揺らぎの典型的な振幅の大きさは内半径4度のcompensating top-hatフィルターに対し、100個のボイドおよびクラスターに対し約10μK程度であるが、我々の開発した準解析的手法に基づく計算によるとガウス的始原揺らぎをもつ標準LCDMモデルにおける平均的な値は同じパラメーターに対してわずか0.5μK程度しかないことが判明した。観測の1σ誤差は3μKであるため、彼らの観測は3σ以上のずれを示唆していることになる。 (2)銀河座標における南半球に存在する"the Cold Spot"を積分ISW効果によって説明するためには赤方偏移zが1に近い値でかつ壁をもたない線形低密度領域(ゆらぎの大きさは0[0.01]程度)である可能性が高い。一方局所的に正の質量をもつ非相殺型ボイドでは外部ホットリングを説明することはできるが温度揺らぎのシグナルが全体として小さくなる傾向がある。この低密度領域の半径は約600h^{-1}Mpcであり従来考えられてきた準線形ボイドに比べ半径が約2~3倍大きい。しかし、このような大きな揺らぎをガウス的始原揺らぎの線形成長で説明することは困難であると考えられる。
|