重力波の初検出を間近に控え、観測データからどのような天文学を新たに展開できるかという研究の重要性が全世界的に増している。ここで基本となるのが波形を特徴付けるパラメータの決定精度の評価である。従来、このような評価で広く用いられてきたのがフィッシャー行列を利用するものである。これは本質的にはノイズがシグナルに及ぼす効果を線形摂動として取り扱うものであり、SN比が1より十分に大きい場合に妥当性が数学的に裏付けられる。 しかし、重力波の初検出は比較的小さいSN比で達成される可能性が高く、フィッシャー行列法を超える手法の開拓が急務であった。本研究計画では、このような状況に対応したものであり年度ごとに順次関連する研究を進めてきた。最終年度でははパラメータ空間上における最尤値の分布を関数曲面と考えて幾何学的観点から新たな解析的手法を展開した。また、背景重力波の相関解析を想定して必要な定式化を行うことに成功した。得られ解析的な結果をLCGTを含む地上干渉計のネットワークに対して具体的に評価した。背景重力波の相関解析においては、SN比は観測時間の平方根に比例して増大するので、観測の初期段階において本研究計画で得られた結果は特に有効性を発揮するものと期待できる。 また、天体物理学的な重力波源として様々な軌道構造を持つ3体系の解析を行い、従来知られていなかった軌道共鳴状態が現れること、重力波解析で重要となりうる新たな効果などを指摘した。
|