多重反射型飛行時間測定式高分解能質量分析器(MRTOFMS)のための高精度・高安定度の高圧電源の開発を進めている。高精度の質量測定を行うための電極の電圧の条件をシミュレーションを繰り返して最適化し、その電位をもっとも正確かつ安定に供給するための回路方式を検討した。その結果、性能に最も敏感なミラー電極部分の電位は一つの高圧電源を高性能抵抗器で分割して供給する方式が適していることが判明した。調整範囲は狭くなるが、イオン光学計算を精密に行うことでそれは克服でき、安定度の点では相対値が鍵となるため本方式が最も優れているといえる。実際の回路に使う全ての電子部品は高精度かつ高安定である必要があるので、それを検査するために、市販品では最高性能のAgilent 3458Aデジタルマルチメータを購入し、抵抗器と高圧電源モジュールのテストを行った。その結果、高性能の高圧電源モジュールと、温度特性の優れた分圧用高抵抗器を選択することができた。開発した高圧電源装置を、実際に真空中においたMTOF用トラップにおいて性能試験を行うため、本年度は真空槽を製作し、イオン源の部品を揃え、トラップ電極の整備も行った。別途製作をすすめているMRTOF質量分析器と本研究の成果を合わせて、短寿命核の質量精密測定を効率良く網羅的行うことが実現できる見込みとなった。
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