静電場でイオンを制御してその飛行時間から質量測定する装置開発において、数ppmの精度・安定度を持つ多チャンネルの高安定化高圧電源が鍵となる。本研究において、ゼロ温度係数抵抗器素子を用いた高圧電源の分圧器と、その電圧を高精度でモニタする電圧測定器、高圧電源モジュール制御器、恒温槽とその温度制御器を開発した。本年度、個々の機器と筐体のハードウエアを完成させ、個々の機器の試験を行った。最も重要な要素である電圧測定器には24bitΣ-△ADC素子を用いており、ノイズレベルの測定において、0.34μVrms(1.25Vレンジにおいて)を得た。基準電圧の測定試験では10ppm程度のゆらぎが観測されているが、恒温槽との組み合わせによって改善できる見込みである。これによってモニタした電圧をフィードバックするために、高圧電源モジュール制御器では、高精度16bitADC素子を1chにつき二個用いて異なるゲインで増幅し加算する疑似22bit DACを構成して用いている。 一方、この装置を用いて質量測定実験を遂行するためのイオントラップの開発も進んでいる。試験用の表面電離イオン源からのカリウムイオンを蓄積し、ガス冷却し、短いバンチイオンとして引き出すことに成功している。この引き出し電位を精密に与えるために、本研究で開発した高安定化高電圧電源を用いる。さらに、その後段に飛行時間測定のためのイオンミラー装置を用意しており、その各々の素子の電位もこの高安定化高圧電源を用いる。このように本研究の成果は、不安定原子核の質量測定のための重要な装置となる。
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