マルチフェロイックスは、横滑り螺旋磁気構造などの特異な磁気構造をもつ相への転移と同時に、強誘電相への転移を示す物質である。本研究では、デラフォサイト型結晶構造を持つCuCrO_2を取り上げる。CuCrO_2は、粉末中性子回折実験より、T_N〜24K以下でc軸をスパイラル面に含んだ120度構造をとることが報告されている。この磁気構造では、スピンカレントモデルを適用しても強誘電分極は出現しないが、最近、CuCrO_2の120度反強磁性相における強誘電性が報告された。本研究では、CuCrO_2単結晶に対する偏極中性子回折実験を行い、分極とspin helicityの関係を詳しく見た。 CuCrO_2では、[110]、[-120]、[-210]にそれぞれ伝播ベクトルをもつ3つの磁気ドメインが形成される。本研究では、磁気ドメインも考慮し、1/3 1/30磁気反射、-1/3 2/3 0磁気反射、-2/3 1/3 0磁気反射に注目している。この系の特徴として、電場反転によるspin helicityの反転が容易に起こることが挙げられる。本実験では、転移温度前後における磁気ドメインの再分布を考慮しなくてもいいように、T=7Kに固定したまま電場制御を行っている。 -73kV/m<E<+73kV/mにおいて中性子実験を行ったところ、上記の全Q-pointにおいて、電場反転によるspin helicity反転が観測された。この結果は、T. Arimaによって提案されたモデルと定性的に一致する。しかし、電場を大きくしたときの振舞いは特異であり、1/3 1/3 0磁気反射ではなく、-1/3 2/3 0磁気反射に大きなカイラリティーの差が観測された。これらの結果は、電場によって磁気ドメインや磁気構造が制御できる可能性を示しており、興味深い。
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