リラクサー誘電体は、広い温度領域で大きな誘電率を示すとともに、その誘電率がゆるやかな温度変化と顕著な周波数依存性をもつ物質群である。その物性は、polar nanoregion(PNR)と呼ばれる自発分極を持ちながらランダムな方向を向いた局所領域を考えることによって説明されている。本研究では、磁性イオンをもつリラクサー誘電体であるペロブスカイト型(1-χ)BiFeO_3-χBaTiO_3や三角格子系LuFeMO_4(M=Co and Mg)に注目し、この系の磁性とリラクサー誘電性の関係を詳しく見た。 2/3BiFeO_3-1/3BaTiO_3単結晶中性子回折実験をT=10K~1000Kで行ったところ、850K以下で核Bragg反射周りに異方的な核散漫散乱が観測された。850K以上で消失するこの核散漫散乱は、PNRの存在を示していると考えられる。さらに、2/3BiFeO_3-1/3BaTiO_3では、Fe^<3+>に起因する磁気反射も観測される。T~500K以下で観測される幅の広い磁気反射は、この系の磁性が短距離磁気秩序であることを示し、T=400K~500Kにおける磁気反射のprofile幅は、核散漫散乱のprofile幅と等しい。PNRやそれらのdomain wallによって磁気秩序が抑制され、ナノサイズの磁気ドメインが生成されると考えられる。2/3BiFeO_3-1/3BaTiO_3では、PNRによって生成されたナノ磁気ドメイン起源の超常磁性が観測されており、新たな電気磁気効果の可能性も期待される。さらにペロブスカイト系2/3BiFeO_3-1/3BaTiO_3だけではなく、三角格子系LuFeMeO_4でもPNRサイズのナノ磁気ドメインとそれに伴う超常磁性が観測されており、ナノ磁気誘電クラスターは、磁性イオンを持つリラクサー誘電体における共通な物性であると考えられる。これは、従来のマルチフェロイック物質とは異なる新規な磁性と誘電性の関係である。
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