研究概要 |
ガラスは有限温度での液体の過冷却によって生成する。物質の状態が冷却とともに粘りが増し,ついにはある温度で固化する。このような現象はガラス転移と呼ばれており, 未だ物性物理学の未解決問題の一つとして認識されている。本研究課題では, ガラス転移について知見を得るために, ガラス中に多量に含まれているナノスケールの空隙(ナノ空孔)に着目した。本年度は, ナノ空孔評価に関する実験環境を整備することを最優先し, 以下を行った。 1. ナノ空孔サイズ分布の調査 ガラス中のナノ空孔サイ分布を高精度に評価するために, デジタルオシロスコープを用いた高時間分解能陽電子寿命計測システムを整備した。幾つかのガラス材料についてデータを取得し, ナノ空孔サイズ分布を評価した 2. ナノ空孔を構成する原子種同定のための計測システムの構築 ガラス中のナノ空孔において, オルソポジトロニウムが空孔壁の電子をピックオフして消滅する際に放出する運動量分布から, ナノ空孔構成原子種の情報を得る陽電子寿命-運動量相関計測システムを立ち上げた。本システムは, 光電子増倍管による陽電子寿命計測部と半導体検出器による運動量分布計測部から構成される 3. 高安定性熱膨張計測システムの構築 本研究課題で提案する熱膨張計測は, 長さ変化を温度に対して調べる従来のタイプではなく,時間に対して調べるものである。そのため, 従来の熱膨張システムと比較して, ドリフト等の影響を受けにくい高い安定陸が必要になる。本研究では,耐震機構, 循環水冷機構を備えた計測システムを構築した。これにより, 数10ナノメートルの長さ分解能を達成した。
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