研究概要 |
本研究では、リラクサー強誘電体および関連物質における熱伝導率と比熱の精密測定から、ナノスケールの相分離現象と巨大圧電応答特性の関係を明らかにすることを試みる。鉛系リラクサー強誘電体にPbTiO_3をドープすることにより、強誘電領域がナノスケールからマクロな大きさへと成長するが、強誘電領域の発達とモルフォトロピック相境界、および巨大圧電特性の関係はほとんど理解されていない。これまでに、ペロブスカイト型の強誘電体BaTiO_3,PbTiO_3,KNbO_3,KTaO_3,NaNbO_3,Pb(Mg_<1/3>Nb_<2/3>)O_3の単結晶の比熱と熱伝導率を系統的に調べ、PbTiO_3では通常の結晶の熱的な振る舞いを示すのに対して、Pb(Mg_<1/3>Nb_<2/3>)O_3はガラスで普遍的に見られる熱物性の挙動を示すことを明らかにした。さらに、リラクサー強誘電体(1-x)Pb(Mg_<1/3>Nb_<2/3>)O_3-xPbTiO_3の良質な単結晶の比熱と熱伝導率を系統的に調べた結果から、熱物性はガラス的な振る舞いから通常の結晶の振る舞いへと系統的に変化することを明らかにした。そこで、当該年度ではこのような振舞いの普遍性を明らかにするため、リラクサー強誘電体(1-x)Pb(Zn_<1/3>Nb_<2/3>)O_3-xPbTiO_3の良質な単結晶を育成し、比熱と熱伝導率を系統的に調べた。結果として、Pb(Zn_<1/3>Nb_<2/3>)O_3は少量PbTiO_3をドープしたPb(Mg_<1/3>Nb_<2/3>)O_3と定量的に同じ振る舞いをし、これはPb(Mg_<1/3>Nb_<2/3>)O_3と比べてPb(Zn_<1/3>Nb_<2/3>)O_3では強誘電領域が発達していることに対応していることを明らかにした。このような結果から、強誘電領域がナノスケールから巨視的な大きさへと発達する過程について重要な知見を得ることに成功した。
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