共鳴非弾性X線散乱(RIXS)における偏光依存性は励起の対称性と密接な関係があると考えられ、ひとたび励起の対称性と偏光依存性に関する選択則が確立すれば、モデルのパラメーター値によらずに励起の起源の議論が可能となる。しかしながら、これまで行われてきたRIXSの研究では偏光を積極的に利用しているとは言い難く、とりわけ、散乱光の偏光状態は全く未知のままである。そこで、本研究では入射光、散乱光両方の偏光を制御した状態でのRIXSの測定を行った。 最初の偏光依存性の研究対象としてKCuF_3のdd励起を選び、銅のK吸収端でのRIXS実験を行った。KCuF_3中のCuでは5重に縮退したd軌道が結晶場によりt_<2g>軌道とe_g軌道に分裂している。1個のホールがe_g軌道を占有しているが、そこには軌道自由度が存在し、大きなJahn-Teller歪みを伴った軌道秩序の状態にある。従って、dd励起には大きく分けて、t_<2g>$軌道からe_g軌道に電子が遷移するものと、e_g軌道間で電子が遷移するものがある。測定の結果、この2つdd励起の偏光依存性に顕著な違いが存在することを発見した。前者は測定したすべての偏光条件で観測されたのに対し、後者はある特定の配置でのπ-π'偏光でのみ観測された。K吸収端でのRIXSでは、双極子遷移による吸収・発光に関わる4p軌道の対称性がX線の偏光と直接関係している。そこで、3d-4p軌道間のクーロン相互作用についての群論的考察を行ったところ、『3d-4p相互作用の対称性からdd励起が起こるための必要条件が得られる』ことがわかった。 一方で、軌道自由度に関わるe_g軌道間の励起は軌道波としての興味がある。今回、e_g軌道間の励起が観測可能な偏光条件での運動量依存性の測定を行ったが、実験分解能(約500meV)の範囲では分散は見られなかった。
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