平成二十年度は主に二軌道アンダーソン格子模型の軌道揺らぎの効果と同型転移を示すベータパイロクロア化合物について研究を行った。 まず、二軌道アンダーソン格子模型を動的平均場理論+数値繰り込み群法で数値的に解析するコードを作成した。年度初めに予算に計上した計算機とは機種を変更したもの2台を購入し作成したコードを用いて数値計算を行った。計算は主に二つの軌道および伝導電子の一粒子スペクトル、軌道、スピン、スピン軌道の動的感受率について行った。数値繰り込み群のカットオフパラメータは300から900状態まで増やして、カットオフによる非物理的な効果がないか確認を行った。 計算の結果、二軌道の占有率が0.5付近から急激に1と0近傍に遷移するパラメータ領域において軌道揺らぎが大きく増大し、その効果が2つの軌道の一粒子状態に低エネルギー励起を成長させることを見出した。これは結晶場励起に対応する。また上記の急激な変化をもたらすには、二つの軌道の伝導電子との混成エネルギーが相当分異なる場合であることがわかった。 圧力下f電子系で実現すると考えられる軌道、価数転移は対称性を変化させない同型転移と呼ばれるが、近年その一次転移について未解明であるベータパイロクロア化合物についてもその概念が適用できるという提案を行った。この物質の場合の自由度はf電子の軌道ではなくイオンの振動の波動関数であり、有効模型の解析の結果、同じ対称性をもつイオン振動の波動関数問において同型転移を起こすことがわかった。このシナリオにより現在まで未解明であった一次転移を定性的に説明することができた。
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