本年度は本プロジェクト最終年度であり、4編の論文をまとめた。これらは3年間の研究の結果であり以前の実績報告と重なる点があるが以下に代表的な内容を2点列挙する。 CeCu_2Si_2系物質におけるメタ軌道転移-クロスオーバと超伝導転移温度の関係: CeCu_2Si_2等で見られる圧力下重い電子状態でのf電子の軌道揺らぎについて解析し、圧力を増加させると二つの軌道占有数が入れ替わる軌道クロスオーバが急激に変化するメタ軌道転移を見いだした。この結果は圧力下で見られる二つの近藤温度が急激に接近する振る舞いを定性的に説明する。さらにf電子の価数が+1に近いまま、このメタ軌道転移近傍で急激に変化することを見いだした。このことは価数の大きな変化を伴わない転移もしくはクロスオーバとして、f電子価数転移の現実的なシナリオを提供するものである。またこの軌道揺らぎを媒介とした超伝導も発現することが期待できる結果である。なお、この成果はJournal of Physical Society of Japan Vol.79 No.11のEditor's Choiceに選ばれた。 βパイロクロア化合物における非調和振動子と強結合超伝導理論: 点群T_dのもとで特徴的な非調和振動が発現しているβパイロクロア化合物の超伝導転移温度と非調和振動について定量的に説明する理論を構築した。中性子散乱で得られている格子振動のプロファイルを再現する微視的な非調和ポテンシャルを構成し、超伝導転移温度を定量的に説明する事に成功した。また異なる物質の系統的違いについても非調和性の強弱で統一的に説明することができた。
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