磁化は磁性体の研究において最も基本的な物理量に一つである。特に、幾何学的にフラストレートした磁性体の新奇な磁気基底状態の探索および解明には、純良な単結晶試料を用いた極低温、高磁場での磁化測定が必要になる場合が多い。このとき純良な単結晶試料は、多くの場合、非常に小さい為、高感度な測定が必要になるが、SQUID素子を用いた磁化測定装置は、低磁場で高い感度(10-8emu)を有するものの、高磁場では急速に感度を失うという欠点を持つ。一方、ファラデー法は高磁場でも感度を失わず、極低温での測定も可能であるが、感度は10-4emu程度にとどまっている。そのため、本研究では極低温、高磁場で超高感度を有するファラデー型マイクロ磁化測定装置の開発以下を研究目的としている。 初年度は、希釈冷凍機の立ち上げを主に行った。特に架台やシールドルームの整備に重点を置き、さらに極低温での測定を実現するために、抵抗温度計用のレジスタンスブリッジ、また2位相ロックインアンプを購入した。希釈冷凍機は冷却試験の結果最低温度11mKを記録し、十分な性能を示した。また、東大物性研究所・榊原グループと共同で、常圧、零磁場近傍で量子臨界性を示す重い電子超伝導体ベータ型YbA1B4についてファラデー法磁化測定を行い、実験技術を学ぶとともに、この新奇な系の磁化がスケーリングを示すことを明らかにした。 マイクロ磁化測定装置を希釈冷凍機に実装するとともに、これを用いたパイロクロア型金属磁性体Pr2Ir2O7における金属スピンアイス状態の検証および2次元三角格子、カゴメ格子磁性体の新奇な磁気基底状態の探索に進みたい。
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