研究概要 |
本研究の目的は、多極子秩序を示す系において、主に多極子揺らぎの特徴を解明することにある。多極子秩序を示す物質は一般的に転移温度が低く、本研究ではまず^3He温度対応NMR測定システムを構築することに着手し、到達最低温度0.5Kの達成を初年度の目標とした。 同システムは(A)ハンドリングシステム, (B)クライオスタットから成り、(A)は^3Heガスを液化, 回収, 循環させるために不可欠な排気システムである。(B)は試料空間を実際に^3He温度にするためのものである。(B)には、(1)ワンショットタイプと(2)コンティニュアスタイプの2つがある。(1)は単純な仕組みであるため作製は容易であるが、(2)を用いなければ長時間に渡り安定に極低温を得ることはできない。多極子揺らぎの特徴解明は核スピン緩和率1/T_1測定により行うが、それには長時間の温度安定が必要である。ただし、(2)は作製が困難であり、完成までに長い時間を要することが容易く予想される。作製の困難さは、(2)がコンティニュアスタイプであるがゆえに"暖かい"液体^3Heが試料空間に戻る際の流量と冷却能力のバランスを取ることが極めて難しいという点にある。加えて、NMRで用いる超伝導マグネットは^4Heガス循環型であり、液体^4Heを用いる超伝導マグネットに比べて試料空間の冷却能力に乏しく、熱流入を抑える必要がある。計画では(1)の作製にまず着手する予定であったが、多極子揺らぎの特徴解明にいち早く着手すべく、初年度より(2)の作製に着手した。 (A)については、既存の^3He対応電気抵抗測定用クライオスタットを用いて試運転を行い、運用可能であることを確認した。また、(B)の(2)については試行錯誤の末に最適なバランスを持つクライオスタット作製に成功し、0.5Kを安定に維持できることを確認した。^4Heガス循環型の超伝導マグネットでの^3He温度対応システムの構築は、これまでに僅か1例しかなく、低温技術という観点からも成果が得られたと考える。
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