研究概要 |
本年度は、(TmYb)B_6の^<11>B核NMRによる核スピン緩和率測定を行い、T=1.5Kでの相転移近傍における多極子揺らぎの存在を実験的に検証する計画であったが、予定を変更し、新奇近藤半導体CeT_2Al_<10>系(T=Fe,Ru,Os)における奇妙な相転移の起源解明を目的とし研究を行った。CeT_2Al_<10>系の低温物性は遷移金属の違いによって異なり、T=Ruでの局在系からT=Feでの遍歴系へと系統的に変化する。Ceの4f電子はT=Ru,Osではほぼ+3価であるが、T=Feでは価数揺動状態にあると考えられる。一方、圧力印加によっていずれの物質でも擬ギャップは潰れ、近藤半導体的振舞から重い電子的状態へと変貌する。さらに興味深い点はT=Ru,OsではそれぞれT_0=27,29Kで相転移を示す点であり、近藤半導体では他に例がない。Ce-Ce間距離が5.2Åと離れていること,GdRu_2Al_<10>ではT_N=16.5Kであることを考慮すると、転移温度T_0は所謂Ce化合物での反強磁性転移温度としては極めて高いと考えられる。2009年の物性報告後、高知大の西岡らにより上記の特徴が指摘されて以来、CeT_2Al_<10>系は一躍注目を集めるに至る。研究の当初において相転移の起源として、AFM秩序,CDW/SDW形成,構造相転移が提案されていたが、確定的結論は得られていなかった。 そこで本年度は、相転移の起源を解明すべく、CeRu_2Al_<10>およびCeをLaで置換した系の単結晶試料を作製し,磁化,比熱,電気抵抗率,熱伝導度,熱起電力などの巨視的物性測定を行った。その結果、T_0での相転移はCe間相互作用に由来すること,T_0以下では単位胞体積が小さくなることなどから、相転移の起源としてCeイオン対によるSpin-Peierls転移様の非磁性一重項基底形成を伴う長距離秩序の可能性を新たに提案した。また、CeT_2Al_<10>系の結晶構造は斜方晶系に属するが、その構造はac面がb軸方向に積層した2次元系とみなせるということを報告した。また、単結晶CeRu_2Al_<10>を用いた^<27>Al核NMRによるスペクトル測定を行うほか、共同研究により、中性子散乱実験,およびパルス強磁場下での磁化,磁気抵抗測定も行った。
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