研究概要 |
本研究は、低エネルギー放射光角度分解光電子分光法の高い分解能とバンド選択性を活用して、銅酸化物高温超伝導体のバンド構造や微細準粒子構造を直接観測し、CuO_2面間の相互作用とCuO_2面外サイトの原子や不純物が、二次元的な準粒子状態に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。本年度は、以下の通り研究課題を実施した。 (1) 頂点酸素を片側にのみ持つT^*相高温超伝導体SmLa_<1-x>Sr_xCuO_4(SLSCO)について、放射光を用いた角度分解光電子分光実験を行い、フェルミ面の形状とギャップ構造を直接観測し、それらのホール濃度依存性を決定した。その結果、SLSCO系のフェルミ面がLSCO系のフェルミ面に比べて曲率が大きいこと、SLSCO系では他の銅酸化物に比べて擬ギャップが非常に強く発達していることなどが明らかになった。これらの結果は、CuO_2面外の頂点サイトが、CuO_2面内の電子の移動積分に寄与することで、CuO_2面の電子状態と超伝導転移温度に影響を及ぼしていることを示唆している。 (2) 単層系銅酸化物高温超伝導体Bi_2Sr_<1.6>Ln_<0.4>Bi_2CuO_<6+δ>(Bi2201)について、SrサイトをLn=La, Nd, Gdで置換することでCuO_2面外の不規則性を系統的に制御しながら、低エネルギー放射光を用いた角度分解光電子分光実験を行い、ギャップの大きさと散乱確率、およびそれらの方向依存性を直接観測により決定した。その結果、面外不規則性が増加して超伝導転移温度が低下するとともに、準粒子散乱確率が系統的に増大し、ノード近傍のギャップが小さくなることを明らかにした。面外不規則性がCuO_2面に及ぼすポテンシャル乱れは小さいが、本研究の結果は、d波超伝導では、従来のs波超伝導とは異なり、面外不規則性によるわずかなポテンシャル乱れが、強い電子対破壊効果をもたらすことを示している。
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