アモルファスMoGe超伝導膜に誘起された量子化磁束の集合体(磁束格子)を電流駆動し、フロー状態における磁束格子の結晶方位と運動方向の関係をモードロック共鳴法により調べた。モードロック共鳴は、摩擦環境下で駆動された磁束格子の周期運動を捉える有効な手段である。本研究では、共鳴条件からフロー方向の磁束格子の周期間隔が求まること、さらにこの長さから磁束格子フローの結晶方位が決まることをはじめて明らかにした。この成果の重要性は検出できる磁束格子フローの速度にある。これまで磁束格子の結晶方位は、磁束格子が静的、あるいは駆動されても低速の場合に限り、中性子小角散乱や走査型トンネル分光実験で調べられてきた。しかし磁束フローが起こるような高速度域では、有効な測定手段がなく、フロー状態における結晶方位の研究はあまり進んでいなかった。本研究で見出したモードロック共鳴法は、低速域からこれまで調べることができなかった高速域まで幅広い速度域をカバーする新しい実験手法である。磁束ダイナミクスの研究の方途を拓く意義深い発見である。 さらに磁束格子のフロー状態において、運動方向に結晶方位が揃う平行なフロー状態だけでなく、結晶方位が垂直となる新しいフロー状態を見出したことも本研究の大きな成果である。特に後者のフロー状態をアモルファス超伝導体で見出した意義は大きい。超伝導体を構成する原子配列が均質かつ等方的に乱れているため、垂直格子フローは、原子配列の対称性を反映しない本質的な現象であることを示唆する。さらに散逸最小条件の議論から常に平行な磁束格子フローが起こると考えられてきたが、本研究によりこの概念を覆す実験証拠がもたらされた。
|